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「やぁ、柊一くん、おはよう。毎日暑いね」
「おはようございます、若宮先生。本当に、蒸し暑いですね」
自社ビルのエントランスで偶然に出会った顧問弁護士は、
上着を片手に、汗をぬぐいながらも颯爽とした出で立ちだった。
「そういえば、ちょっといいかな?」
「はい・・・なんでしょうか」
「もし、心当たりがあれば教えてもらいたいのだが」
「・・・はい」
「柊一くんは、いい呉服屋知っているかい?」
「・・・呉服屋・・・ですか?」
予想外の話に、少しとまどう。
「ああ。品があって今風な浴衣が欲しいんだ。
あ、それと、素人にも親切な店じゃないと、困るな」
「・・・あの・・・それって・・・」
「実はね、内緒なんだが、早瀬に浴衣をプレゼントしてやろうと思って」
「早瀬さんに・・・」
表情と声に、プライベートな甘さが含まれる。
「ああ。きっとよく似合うと思うんだが、本人が全く興味を示さなくてね。
もったいない。似合うと思わないか?そこで、こっそり俺が見立てて、
着せてやろうと思って」
「早瀬さんに、浴衣ですか・・・きっと涼しげでよく似合うでしょうね。
確か、母が懇意にしている店がありましたから、聞いてみます。」
「悪いね、忙しいのに」
「いえ」
若宮を見送った後で、ふと考える。
浴衣・・・か。
確かに、早瀬にはよく似合うだろう。
でも、きっと冴木だって、とてもよく似合うと思う。
男らしい肩、きれいに筋肉のついた胸、絶対に映えるはずだ。
そういえば、実家には、以前あつらえてもらった着物があったはず。
浴衣は・・・なかった・・・かな。
うん・・・やっぱり、この夏は、冴木に浴衣を着せてみたい。
若宮の話を聞いて、突然ひらめいた考えに、柊一は心がはずんだ。
せっかくなんだし、僕も一緒に行って冴木の浴衣をあつらえてもらおう。
「若宮先生ですか。はい、さきほどの件ですが・・・」
柊一の行動は、一度決めたら、いつもながらに迅速だった。
昼休みに母親に電話して教えてもらった内容を若宮に伝え、さらに、
あることを打診した。
「先生、もし、ご迷惑でなかったら、僕もご一緒してよろしいですか?」
「えっ?柊一くんが?」
「ええ、実は・・・僕も浴衣をあつらえたくて・・・あの・・・冴木のですが・・・」
「そうか。うん、かまわないよ。
というか、ひとりでいくのは、いささか心細かったから、助かるよ。
それじゃ、このことは冴木には内緒なんだね?」
「はい、そうして頂けると、ありがたいです」
「わかったよ。お互いに、サプライズを楽しもうじゃないか。それじゃ、金曜日の7時に」
恋人のために、内緒のプレゼントを準備する。
こんなにワクワクするのは、初めてかもしれない。
冴木の帰宅が遅いときや、風呂に入っている間、柊一は浴衣選びの参考のために、
ネットであちらこちらを見て回った。
その口元は優しくほころび、瞳はいたずらっ子のように輝く。
風呂上がりの冴木が浴衣を着た姿を想像して、うっかり見とれることも、何度かあった。
「どうかされましたか、柊一さま?」
「あ・・・いや、なんでもない」
なんとなく、落ち着きのない、しかし少し浮かれたように楽しそうな柊一の表情を
冴木は怪訝な面持ちで見つめていた。
約束の金曜日。
待ち合わせは、店の最寄り駅の改札だった。
「おまたせしました、柊一さま」
「えっ?」
そこに現れたのは、若宮ではなく、冴木本人だった。
「冴木・・・どうしてお前が?」
「詳しい話は後です。若宮は来ませんから、私と一緒に行ってください。
呉服屋の松栄ですね。」
「う・・・うん」
促されて、タクシーに乗り込んだ。
「冴木・・・あの・・・」
「柊一さま、浴衣をプレゼントしてくださるそうですね。
早瀬から聞きました。」
「え・・・早瀬さんから?」
訳がわからないという柊一に、冴木は淡々と説明した。
「早瀬から電話をもらいました。
若宮が、面倒なことを柊一さんに頼んだらしいと言うこと。
さらに、ふたりで浴衣を選びに行くらしいと言うこと。
せっかくなのだから、私自身が柊一さまと一緒に行く方がいいと、早瀬が勧めてくれたんです」
「でも、このことは早瀬さんには内緒だったはず・・・」
「はい、若宮がこっそりネットで浴衣をチェックしたり、思わせぶりに、
早瀬の好みを尋ねたりしていたようです。
ちょっと、つついたら、ボロボロと白状した・・・とのことですよ」
若宮先生・・・ちょっと気の毒だな。
「私に内緒で、こんなことを計画するなんて」
「でも、冴木、これはお前のためのサプライズなプレゼントで」
「わかっています。
わかっていますが、それでも、私以外の男と一緒に、
あなたが行動するなんて。
それを黙って見過ごせるほど、私は心が広くはありませんので」
「・・・冴木・・・ごめん」
「いいんですよ、柊一さま。ただ、あなたも浴衣をあつらえてください。
一緒に選びましょう。よろしいですね。それと・・・」
冴木は、柊一の耳元に唇を近づけると、甘く低い声で囁く。
「・・・今夜は、寝かしませんよ。あなたには、身体で償って頂きますから」
そういうと、耳たぶを唇ではさみ、キュッと吸い上げた後に、
舌で舐めあげた。
「やっ・・・冴木・・・」
松栄は、畳のいい香りのする、老舗の呉服屋だった。
柊一の母は、家まで品物を持参させて吟味することも多いのだが、
今夜は、わざわざ柊一が来店したことで、品のいい年配の女主人も
実直な雰囲気のその息子も恭しく歓迎してくれた。
紺地、白、深い灰色など、様々な反物が引き出され、浴衣選びが始まった。
どの色も、凛とした柊一の美しさをよく引き立たせる物で、なかなか選び難かったが、
冴木が選んだのは、色目を押さえた深い藍色に水色の模様が全体にあしらわれ、
白い優雅な鳥が描かれた、落ち着いた反物であった。
冴木のために、柊一が選んだのは、
濃い紺地のシンプルな反物で、角帯は、白地に精緻な模様を織り込んだ美しいものだった。
寸法を採られ、仕上がり日を確認すると、再びタクシーで帰路につく。
「冴木、疲れただろう?」
「いいえ、柊一さまこそ、随分熱心に選んでおられたようですが、大丈夫ですか」
「ああ。とても楽しかった。仕上がりが待ち遠しいな」
「はい、そうですね。それに、こんなひとときを、若宮に横取りされなくて、よかったです」
「あ・・・ごめん。」
「もう、謝らないでください。
それよりも、柊一さま・・・・・」
冴木は柊一の肩を抱き寄せると、そっと囁く。
「今夜は、あなたに・・・・・させてください。
そして、あなたは私の・・・・・を・・・・してください。いいですね」
「え、冴木・・・ちょっと・・・」
もちろん、前の運転手には聞こえてはいないが、
そのエロティックな内容に、思わず首まで真っ赤に染めて、うつむいてしまう。
「本当に、仕上がりが待ち遠しいですね、柊一さま。
でも私は、正直言うと、あなたに浴衣を着せるよりも、脱がせる方が、ずっと楽しみですよ」
可愛く恥じらう柊一を堪能しながら、さらにおのれの欲するまま我が道を行く冴木だった。
The End
「おはようございます、若宮先生。本当に、蒸し暑いですね」
自社ビルのエントランスで偶然に出会った顧問弁護士は、
上着を片手に、汗をぬぐいながらも颯爽とした出で立ちだった。
「そういえば、ちょっといいかな?」
「はい・・・なんでしょうか」
「もし、心当たりがあれば教えてもらいたいのだが」
「・・・はい」
「柊一くんは、いい呉服屋知っているかい?」
「・・・呉服屋・・・ですか?」
予想外の話に、少しとまどう。
「ああ。品があって今風な浴衣が欲しいんだ。
あ、それと、素人にも親切な店じゃないと、困るな」
「・・・あの・・・それって・・・」
「実はね、内緒なんだが、早瀬に浴衣をプレゼントしてやろうと思って」
「早瀬さんに・・・」
表情と声に、プライベートな甘さが含まれる。
「ああ。きっとよく似合うと思うんだが、本人が全く興味を示さなくてね。
もったいない。似合うと思わないか?そこで、こっそり俺が見立てて、
着せてやろうと思って」
「早瀬さんに、浴衣ですか・・・きっと涼しげでよく似合うでしょうね。
確か、母が懇意にしている店がありましたから、聞いてみます。」
「悪いね、忙しいのに」
「いえ」
若宮を見送った後で、ふと考える。
浴衣・・・か。
確かに、早瀬にはよく似合うだろう。
でも、きっと冴木だって、とてもよく似合うと思う。
男らしい肩、きれいに筋肉のついた胸、絶対に映えるはずだ。
そういえば、実家には、以前あつらえてもらった着物があったはず。
浴衣は・・・なかった・・・かな。
うん・・・やっぱり、この夏は、冴木に浴衣を着せてみたい。
若宮の話を聞いて、突然ひらめいた考えに、柊一は心がはずんだ。
せっかくなんだし、僕も一緒に行って冴木の浴衣をあつらえてもらおう。
「若宮先生ですか。はい、さきほどの件ですが・・・」
柊一の行動は、一度決めたら、いつもながらに迅速だった。
昼休みに母親に電話して教えてもらった内容を若宮に伝え、さらに、
あることを打診した。
「先生、もし、ご迷惑でなかったら、僕もご一緒してよろしいですか?」
「えっ?柊一くんが?」
「ええ、実は・・・僕も浴衣をあつらえたくて・・・あの・・・冴木のですが・・・」
「そうか。うん、かまわないよ。
というか、ひとりでいくのは、いささか心細かったから、助かるよ。
それじゃ、このことは冴木には内緒なんだね?」
「はい、そうして頂けると、ありがたいです」
「わかったよ。お互いに、サプライズを楽しもうじゃないか。それじゃ、金曜日の7時に」
恋人のために、内緒のプレゼントを準備する。
こんなにワクワクするのは、初めてかもしれない。
冴木の帰宅が遅いときや、風呂に入っている間、柊一は浴衣選びの参考のために、
ネットであちらこちらを見て回った。
その口元は優しくほころび、瞳はいたずらっ子のように輝く。
風呂上がりの冴木が浴衣を着た姿を想像して、うっかり見とれることも、何度かあった。
「どうかされましたか、柊一さま?」
「あ・・・いや、なんでもない」
なんとなく、落ち着きのない、しかし少し浮かれたように楽しそうな柊一の表情を
冴木は怪訝な面持ちで見つめていた。
約束の金曜日。
待ち合わせは、店の最寄り駅の改札だった。
「おまたせしました、柊一さま」
「えっ?」
そこに現れたのは、若宮ではなく、冴木本人だった。
「冴木・・・どうしてお前が?」
「詳しい話は後です。若宮は来ませんから、私と一緒に行ってください。
呉服屋の松栄ですね。」
「う・・・うん」
促されて、タクシーに乗り込んだ。
「冴木・・・あの・・・」
「柊一さま、浴衣をプレゼントしてくださるそうですね。
早瀬から聞きました。」
「え・・・早瀬さんから?」
訳がわからないという柊一に、冴木は淡々と説明した。
「早瀬から電話をもらいました。
若宮が、面倒なことを柊一さんに頼んだらしいと言うこと。
さらに、ふたりで浴衣を選びに行くらしいと言うこと。
せっかくなのだから、私自身が柊一さまと一緒に行く方がいいと、早瀬が勧めてくれたんです」
「でも、このことは早瀬さんには内緒だったはず・・・」
「はい、若宮がこっそりネットで浴衣をチェックしたり、思わせぶりに、
早瀬の好みを尋ねたりしていたようです。
ちょっと、つついたら、ボロボロと白状した・・・とのことですよ」
若宮先生・・・ちょっと気の毒だな。
「私に内緒で、こんなことを計画するなんて」
「でも、冴木、これはお前のためのサプライズなプレゼントで」
「わかっています。
わかっていますが、それでも、私以外の男と一緒に、
あなたが行動するなんて。
それを黙って見過ごせるほど、私は心が広くはありませんので」
「・・・冴木・・・ごめん」
「いいんですよ、柊一さま。ただ、あなたも浴衣をあつらえてください。
一緒に選びましょう。よろしいですね。それと・・・」
冴木は、柊一の耳元に唇を近づけると、甘く低い声で囁く。
「・・・今夜は、寝かしませんよ。あなたには、身体で償って頂きますから」
そういうと、耳たぶを唇ではさみ、キュッと吸い上げた後に、
舌で舐めあげた。
「やっ・・・冴木・・・」
松栄は、畳のいい香りのする、老舗の呉服屋だった。
柊一の母は、家まで品物を持参させて吟味することも多いのだが、
今夜は、わざわざ柊一が来店したことで、品のいい年配の女主人も
実直な雰囲気のその息子も恭しく歓迎してくれた。
紺地、白、深い灰色など、様々な反物が引き出され、浴衣選びが始まった。
どの色も、凛とした柊一の美しさをよく引き立たせる物で、なかなか選び難かったが、
冴木が選んだのは、色目を押さえた深い藍色に水色の模様が全体にあしらわれ、
白い優雅な鳥が描かれた、落ち着いた反物であった。
冴木のために、柊一が選んだのは、
濃い紺地のシンプルな反物で、角帯は、白地に精緻な模様を織り込んだ美しいものだった。
寸法を採られ、仕上がり日を確認すると、再びタクシーで帰路につく。
「冴木、疲れただろう?」
「いいえ、柊一さまこそ、随分熱心に選んでおられたようですが、大丈夫ですか」
「ああ。とても楽しかった。仕上がりが待ち遠しいな」
「はい、そうですね。それに、こんなひとときを、若宮に横取りされなくて、よかったです」
「あ・・・ごめん。」
「もう、謝らないでください。
それよりも、柊一さま・・・・・」
冴木は柊一の肩を抱き寄せると、そっと囁く。
「今夜は、あなたに・・・・・させてください。
そして、あなたは私の・・・・・を・・・・してください。いいですね」
「え、冴木・・・ちょっと・・・」
もちろん、前の運転手には聞こえてはいないが、
そのエロティックな内容に、思わず首まで真っ赤に染めて、うつむいてしまう。
「本当に、仕上がりが待ち遠しいですね、柊一さま。
でも私は、正直言うと、あなたに浴衣を着せるよりも、脱がせる方が、ずっと楽しみですよ」
可愛く恥じらう柊一を堪能しながら、さらにおのれの欲するまま我が道を行く冴木だった。
The End
「あっ・・・や・・そこは・・・・・」
「ここがイヤなら、どこがイイんですか、柊一さま」
ベッドサイドの小さな灯りが、ぼんやりと室内を照らす。
「冴木・・・だから、もう・・・」
「もう・・・なんですか?入れて・・・ですか?
さっき、あんなにいったばかりなのに、もう、欲しいのですか?」
「ちが・・・う・・・あっ・・・んん・・・」
恥ずかしい言葉など、絶対に言わされるものか、とぎゅっと唇を噛みしめる様子をみて、
冴木は楽しそうに目を細める。
「わかりました。ここをこうしてほしいのですね」
そう言うのと同時に、最も奥深いトコロへと自身を突き立てる。
「ああっ・・だから・・・ちが・・・」
「おや、違うのですか、すいません。じゃ、こうですね?」
いきなり体を反転させて、なおも、執拗に柊一の身体を追い詰める。
「よせ・・・何をする・・・うっ・・・」
「もっと大きく揺さぶられる・・・ほうがお好きでしたか?
ああ、こちらも握って差し上げる方が、もっと気持ちいいですよね、柊一さま」
「はっ・・・・・冴木・・・ああ・・・」
今夜の冴木は、いつにも増して意地悪だった。
もっとも、その原因を作ったのは、どうやら僕だったらしいが。
それは、その日の夜・・・日付が変わる前のことだった。
「冴木、もう・・・いかせて・・・」
「ええ、いいですよ。だから、しっかり私を抱きしめて。
そうです、・・脚も・・・ああ、柊一さま・・・そう・・・もっと」
冴木は両腕で僕の身体を抱きしめると、首筋にかじりつくような姿勢ではてた。
僕の方は、強すぎる快感に、冴木の肩を抱き込むと、自分から両脚を絡めてしまっていた。
荒い息のまま、互いを抱きしめ合いながら、余韻を感じ合う。
ふと、魔が差して僕は時々疑問に感じていたことに、思いをはせてしまった。
冴木は、僕以外の人間との経験があるのだろうか・・・。
もちろん冴木の不実など疑ったことはない。
しかし、自信に満ちた行為には、物慣れた雰囲気があり、
僕が初めてだったとは、到底信じられないのだ。
「柊一さま・・・どうかされましたか?」
僕が自分の考えにとらわれていたことに、冴木が気づいたらしい。
「いや・・・」
「・・・少し激しすぎましたか?・・・すいません」
「いや、・・・・・大丈夫だから」
「では、何を考えておられたのですか?」
優しく僕を見下ろす冴木の瞳を見ているうちに、
普段なら絶対に言わないであろうことを言ってしまった。
「冴木は・・・僕以外の誰かと・・・経験があるのか?」
僕の言葉を聞いて、冴木は一瞬息を止めたが、直後に笑い始めた。
「あなた以外の誰かと・・・ですか?
まさか。私が興味があるのは、これまでも、これからもあなただけですし、
こんな風に抱きしめたいのも、あなただけですよ。」
「・・・そうか。」
「ところで。なんで、そんなことを思いついたのですか?」
僕だけだという冴木の言葉がうれしくて、また、正直に言ってしまった。
「だって・・・なんか慣れた感じだったから・・・。」
「慣れた感じ・・・ですか・・・」
噛みしめるように、つぶやいた冴木に、さらに言葉をかけた。
「なんか自信たっぷりだし、動作が・・・迷うことなく・・その・・・」
「慣れた感じだった・・・というのは、柊一さま、私と誰を比べたのですか?」
そういうと、冴木は、再び僕の身体に乗り上げて、胸を合わせた。
「え?・・・別に・・・比べるなんて」
「いいえ、比べたのではないですか?まさか・・・山脇・・・?」
標的を狙うように目を細めると、低くて甘い声で僕を追いつめる。
「ちがう。誰とも比べたりしない。だいたい、比べるなんて、できるはずがないだろう!
僕には・・・」
さらに、恥ずかしいことを言ってしまいそうで、言葉が詰まった。
「僕には・・・なんですか?続きを言ってください、柊一さま」
「・・・僕にはお前だけなのに・・・比べるなんてできるはずがない」
そう言い放つと、冴木に背を向けて、身体を丸めた。
なんて恥ずかしいことを言っているんだ、僕は。
冴木の大きな手のひらが、僕の肩を包む。
背中にぴったりとはりつくと、耳たぶを優しくはみながらささやいた。
「あなたは、私だけ知っていればいいのです・・・柊一さま。
私も、あなた以外は、知る必要はありません」
「・・・冴木・・・」
「私が、的確にあなたを追い上げていたとしたら、
それは、あなたの身体が快楽に対して素直だからです。
気持ちが良い場所を触ると、すぐにあなたはイイ声でないてくださるから、
初めてであっても、私は迷いようがなかったのです」
「・・・ちょっと待て!」
僕は、あんまりな言い方に、腹を立てて身体を反転させた。
「どういう意味だ。僕がいやらしいから、といでもいうのか?
僕のせいだというのか?」
「あなたのせいだとは、言ってません。
あなたが、ちゃんと『ソコがイイ』と言ってくださるから」
「言ってない!」
羞恥心のあまり、頬が赤くなるのが自分でもわかる。
「そんなこと、僕は絶対に言ってない」
「言いましたよ」
「言ってない」
「言いましたったら、言いました」
「言ってないったら、言ってないったら、絶対に言ってない」
一息に言い切ると、唇を噛みしめて冴木をにらみつけてやった。
「柊一さま。そんなに可愛い顔で怒らないでください。」
「怒らせたのは、お前だろ」
「・・・わかりました。では、存分に思い出して頂きましょう」
そういうと、冴木は、いきなり僕の脚を抱え上げて身体を密着させた。
「おい、冴木!なんなんだ、一体!」
十分に高ぶった冴木自身が、押しつけられる。
「ですから、『イイ』と言ってくださるよう、私がして差し上げます。
きっと、夢中だったので、覚えておられないだけですよ、柊一さま。」
「よせっ、冴木!あっ・・・・や・・・」
結局のその日は、「ソコがイイ」と言うまで、何度も抱かれてしまった。
魔が差したとはいえ、何て余計なことを言ってしまったのだろう・・・と、少し後悔もしたが、
それよりも、冴木には僕だけだということを確かめられたことの方が、
うれしいと感じてしまう僕は、
随分愚かで、幸せ者だと思った。
The END
「ここがイヤなら、どこがイイんですか、柊一さま」
ベッドサイドの小さな灯りが、ぼんやりと室内を照らす。
「冴木・・・だから、もう・・・」
「もう・・・なんですか?入れて・・・ですか?
さっき、あんなにいったばかりなのに、もう、欲しいのですか?」
「ちが・・・う・・・あっ・・・んん・・・」
恥ずかしい言葉など、絶対に言わされるものか、とぎゅっと唇を噛みしめる様子をみて、
冴木は楽しそうに目を細める。
「わかりました。ここをこうしてほしいのですね」
そう言うのと同時に、最も奥深いトコロへと自身を突き立てる。
「ああっ・・だから・・・ちが・・・」
「おや、違うのですか、すいません。じゃ、こうですね?」
いきなり体を反転させて、なおも、執拗に柊一の身体を追い詰める。
「よせ・・・何をする・・・うっ・・・」
「もっと大きく揺さぶられる・・・ほうがお好きでしたか?
ああ、こちらも握って差し上げる方が、もっと気持ちいいですよね、柊一さま」
「はっ・・・・・冴木・・・ああ・・・」
今夜の冴木は、いつにも増して意地悪だった。
もっとも、その原因を作ったのは、どうやら僕だったらしいが。
それは、その日の夜・・・日付が変わる前のことだった。
「冴木、もう・・・いかせて・・・」
「ええ、いいですよ。だから、しっかり私を抱きしめて。
そうです、・・脚も・・・ああ、柊一さま・・・そう・・・もっと」
冴木は両腕で僕の身体を抱きしめると、首筋にかじりつくような姿勢ではてた。
僕の方は、強すぎる快感に、冴木の肩を抱き込むと、自分から両脚を絡めてしまっていた。
荒い息のまま、互いを抱きしめ合いながら、余韻を感じ合う。
ふと、魔が差して僕は時々疑問に感じていたことに、思いをはせてしまった。
冴木は、僕以外の人間との経験があるのだろうか・・・。
もちろん冴木の不実など疑ったことはない。
しかし、自信に満ちた行為には、物慣れた雰囲気があり、
僕が初めてだったとは、到底信じられないのだ。
「柊一さま・・・どうかされましたか?」
僕が自分の考えにとらわれていたことに、冴木が気づいたらしい。
「いや・・・」
「・・・少し激しすぎましたか?・・・すいません」
「いや、・・・・・大丈夫だから」
「では、何を考えておられたのですか?」
優しく僕を見下ろす冴木の瞳を見ているうちに、
普段なら絶対に言わないであろうことを言ってしまった。
「冴木は・・・僕以外の誰かと・・・経験があるのか?」
僕の言葉を聞いて、冴木は一瞬息を止めたが、直後に笑い始めた。
「あなた以外の誰かと・・・ですか?
まさか。私が興味があるのは、これまでも、これからもあなただけですし、
こんな風に抱きしめたいのも、あなただけですよ。」
「・・・そうか。」
「ところで。なんで、そんなことを思いついたのですか?」
僕だけだという冴木の言葉がうれしくて、また、正直に言ってしまった。
「だって・・・なんか慣れた感じだったから・・・。」
「慣れた感じ・・・ですか・・・」
噛みしめるように、つぶやいた冴木に、さらに言葉をかけた。
「なんか自信たっぷりだし、動作が・・・迷うことなく・・その・・・」
「慣れた感じだった・・・というのは、柊一さま、私と誰を比べたのですか?」
そういうと、冴木は、再び僕の身体に乗り上げて、胸を合わせた。
「え?・・・別に・・・比べるなんて」
「いいえ、比べたのではないですか?まさか・・・山脇・・・?」
標的を狙うように目を細めると、低くて甘い声で僕を追いつめる。
「ちがう。誰とも比べたりしない。だいたい、比べるなんて、できるはずがないだろう!
僕には・・・」
さらに、恥ずかしいことを言ってしまいそうで、言葉が詰まった。
「僕には・・・なんですか?続きを言ってください、柊一さま」
「・・・僕にはお前だけなのに・・・比べるなんてできるはずがない」
そう言い放つと、冴木に背を向けて、身体を丸めた。
なんて恥ずかしいことを言っているんだ、僕は。
冴木の大きな手のひらが、僕の肩を包む。
背中にぴったりとはりつくと、耳たぶを優しくはみながらささやいた。
「あなたは、私だけ知っていればいいのです・・・柊一さま。
私も、あなた以外は、知る必要はありません」
「・・・冴木・・・」
「私が、的確にあなたを追い上げていたとしたら、
それは、あなたの身体が快楽に対して素直だからです。
気持ちが良い場所を触ると、すぐにあなたはイイ声でないてくださるから、
初めてであっても、私は迷いようがなかったのです」
「・・・ちょっと待て!」
僕は、あんまりな言い方に、腹を立てて身体を反転させた。
「どういう意味だ。僕がいやらしいから、といでもいうのか?
僕のせいだというのか?」
「あなたのせいだとは、言ってません。
あなたが、ちゃんと『ソコがイイ』と言ってくださるから」
「言ってない!」
羞恥心のあまり、頬が赤くなるのが自分でもわかる。
「そんなこと、僕は絶対に言ってない」
「言いましたよ」
「言ってない」
「言いましたったら、言いました」
「言ってないったら、言ってないったら、絶対に言ってない」
一息に言い切ると、唇を噛みしめて冴木をにらみつけてやった。
「柊一さま。そんなに可愛い顔で怒らないでください。」
「怒らせたのは、お前だろ」
「・・・わかりました。では、存分に思い出して頂きましょう」
そういうと、冴木は、いきなり僕の脚を抱え上げて身体を密着させた。
「おい、冴木!なんなんだ、一体!」
十分に高ぶった冴木自身が、押しつけられる。
「ですから、『イイ』と言ってくださるよう、私がして差し上げます。
きっと、夢中だったので、覚えておられないだけですよ、柊一さま。」
「よせっ、冴木!あっ・・・・や・・・」
結局のその日は、「ソコがイイ」と言うまで、何度も抱かれてしまった。
魔が差したとはいえ、何て余計なことを言ってしまったのだろう・・・と、少し後悔もしたが、
それよりも、冴木には僕だけだということを確かめられたことの方が、
うれしいと感じてしまう僕は、
随分愚かで、幸せ者だと思った。
The END はじめまして。
こちらは、日々BL的妄想をもてあましている夜の住人彩香とお友達れんの創作BLオリジナル&二次創作ブログです。
オリジナル&「憂鬱な朝」は18禁的描写を含みますのでお気をつけください。
ときにかなり濃ゆい描写を含みます(^^;)
なんでもバッチコイ!というお心の広い方、どうぞ愉しんでくださいまし♪(←彩香)
お友達のれんタンは、『スレイヴァーズ』シリーズの二次創作担当です♪
甘くてロマンチックで、ときに切ないSSです。


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こちらは、日々BL的妄想をもてあましている夜の住人彩香とお友達れんの創作BLオリジナル&二次創作ブログです。
オリジナル&「憂鬱な朝」は18禁的描写を含みますのでお気をつけください。
ときにかなり濃ゆい描写を含みます(^^;)
なんでもバッチコイ!というお心の広い方、どうぞ愉しんでくださいまし♪(←彩香)
お友達のれんタンは、『スレイヴァーズ』シリーズの二次創作担当です♪
甘くてロマンチックで、ときに切ないSSです。
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すっかり日も暮れた夏の夜。
日中の蒸し暑さも、今は感じられない。
マンションのエントランスには、色とりどりの短冊が付けられた
七夕の笹が飾られていた。
「そういえば、今日は7月7日か・・・。」
クリスマスほどの華やかさはないものの、
やはり七夕というのは、素朴でロマンティックな星祭りだと思う。
子どもの頃は、桔梗と一緒に、家族にも使用人にも短冊を渡して、
それぞれの願い事を笹に飾った。
『お母さんの病気が良くなりますように』
『みんなが元気でありますように』
柊一の願い事は、ありきたりだが、一番欲しいと感じたものだった。
『柊一兄さんと、もっとたくさん遊びたいです』
『ラジコンが欲しいです』
桔梗のそれは、かなり現実的だった。
「そういえば、冴木は、どんな願い事を書いていたのだろう」
シャワーを浴びて、ベランダで風に吹かれながらミネラルウォーターを飲んでいると、
都会にはめずらしく星が輝いていた。
小さな発見をしたようで、うれしくなり、冴木に声をかける。
「七夕の願い事・・・ですか?」
「ああ。昔、うちでも毎年飾っていただろう?
お前は、どんな願い事をしていたんだ?」
ベランダでふたり、たたずむ。
冴木は、ふと遠くを見つめるような目をすると、すぐに視線を伏せた。
「・・・忘れました」
「忘れたのか?」
「ええ。少なくとも、短冊に書いて飾れるような願い事は、
私にはなかったと思います」
「書けないような願い事だったのか?」
柊一は、笑みを浮かべながら、なおも食い下がった。
「はい。誰にもかなえられず、誰にも知られたくない願い事でしたから」
「なんだ、ちゃんと覚えているんじゃないか」
「すいません」
少し涼しすぎませんか・・・と柊一の背中から、冴木が肩を抱く。
柊一が、冴木を見上げながらつぶやいた。
「今の、お前の願い事は何だ?」
「・・・・・・・・・」
冴木の懐に包まれながら、そっと右手を差し出して、その頬を優しくなでた。
「柊一さま・・・」
「僕が、かなえてやるから。お前の願いをきかせてくれないか」
「・・・・・私のすべてをあなたに。
次の世でも・・・あなたとともに。」
かすれそうな声は、甘く低く響いた。
「いいよ・・・僕が、かなえてやる・・。あ・・・んん・・・」
言い終わらないうちに、その赤い唇は、冴木によってふさがれ、
やがて深い口づけとなる。
星祭りの夜。
互いのすべてを分かち合い、ともに永遠にありたいという願い事を胸に、
僕たちは、愛し合った。
☆ the End ☆
日中の蒸し暑さも、今は感じられない。
マンションのエントランスには、色とりどりの短冊が付けられた
七夕の笹が飾られていた。
「そういえば、今日は7月7日か・・・。」
クリスマスほどの華やかさはないものの、
やはり七夕というのは、素朴でロマンティックな星祭りだと思う。
子どもの頃は、桔梗と一緒に、家族にも使用人にも短冊を渡して、
それぞれの願い事を笹に飾った。
『お母さんの病気が良くなりますように』
『みんなが元気でありますように』
柊一の願い事は、ありきたりだが、一番欲しいと感じたものだった。
『柊一兄さんと、もっとたくさん遊びたいです』
『ラジコンが欲しいです』
桔梗のそれは、かなり現実的だった。
「そういえば、冴木は、どんな願い事を書いていたのだろう」
シャワーを浴びて、ベランダで風に吹かれながらミネラルウォーターを飲んでいると、
都会にはめずらしく星が輝いていた。
小さな発見をしたようで、うれしくなり、冴木に声をかける。
「七夕の願い事・・・ですか?」
「ああ。昔、うちでも毎年飾っていただろう?
お前は、どんな願い事をしていたんだ?」
ベランダでふたり、たたずむ。
冴木は、ふと遠くを見つめるような目をすると、すぐに視線を伏せた。
「・・・忘れました」
「忘れたのか?」
「ええ。少なくとも、短冊に書いて飾れるような願い事は、
私にはなかったと思います」
「書けないような願い事だったのか?」
柊一は、笑みを浮かべながら、なおも食い下がった。
「はい。誰にもかなえられず、誰にも知られたくない願い事でしたから」
「なんだ、ちゃんと覚えているんじゃないか」
「すいません」
少し涼しすぎませんか・・・と柊一の背中から、冴木が肩を抱く。
柊一が、冴木を見上げながらつぶやいた。
「今の、お前の願い事は何だ?」
「・・・・・・・・・」
冴木の懐に包まれながら、そっと右手を差し出して、その頬を優しくなでた。
「柊一さま・・・」
「僕が、かなえてやるから。お前の願いをきかせてくれないか」
「・・・・・私のすべてをあなたに。
次の世でも・・・あなたとともに。」
かすれそうな声は、甘く低く響いた。
「いいよ・・・僕が、かなえてやる・・。あ・・・んん・・・」
言い終わらないうちに、その赤い唇は、冴木によってふさがれ、
やがて深い口づけとなる。
星祭りの夜。
互いのすべてを分かち合い、ともに永遠にありたいという願い事を胸に、
僕たちは、愛し合った。
☆ the End ☆
『お疲れ様です、柊一さま。会議が早く終わりました。一緒に食事でもどうですか。
何か食べたいものはありますか?』
冴木からのメールに、表情がゆるむ。
『会議お疲れ様。特に思いつかないけれど。お前は何がいい?まかせるよ。』
変わり映えのない内容だったが、すぐに返事が来て、
指定された喫茶店で待ち合わせとなった。
こうやって、急に誘われるのも、やっぱりうれしいものだな。
何となく気持ちが逸って、20分も前に着いてしまった。
カフェオレのカップを持ちながら時間を確かめていると、
隣の二人連れの話が偶然聞こえてきた。
「初めは良かったんだよな〜、こいつ、可愛いぞって」
・・・恋人の話か・・・?
「でもさ、何度誘っても、『何処でもいい』とか
『あなたにまかせるわ』なんて言われると、
本当に俺とデートしたいのかなって、勘ぐりたくなるんだよな〜」
サラリーマン風の男がぼやくと、向かい側の男も同調する。
「あ〜〜、それ、わかる!常に受け身って、物足らなくなるよな」
・・・常に受け身って、物足らなくなる?
ほとんど同じ内容を、自分はさっきメールしたばかりだ。
しかも、振り返ってみると、どこかへ行こうというような誘いの
ほとんどは、冴木からだった。
自分は冴木にこんなところまで、頼り切っていた?
こんな自分を、冴木はどう思っていたのだろう・・・。
愛情を疑うつもりは、まったくない。
しかし、いつも冴木に甘えてばかりではいけないと思う。
誘われるばかりでなく、時には、自分から冴木のために、動いたほうがいいのではないか。
生真面目な柊一は、自分の非を自覚すると、すぐに行動を修正すべく、
計画を練り始めた。
何か食べたいものはありますか?』
冴木からのメールに、表情がゆるむ。
『会議お疲れ様。特に思いつかないけれど。お前は何がいい?まかせるよ。』
変わり映えのない内容だったが、すぐに返事が来て、
指定された喫茶店で待ち合わせとなった。
こうやって、急に誘われるのも、やっぱりうれしいものだな。
何となく気持ちが逸って、20分も前に着いてしまった。
カフェオレのカップを持ちながら時間を確かめていると、
隣の二人連れの話が偶然聞こえてきた。
「初めは良かったんだよな〜、こいつ、可愛いぞって」
・・・恋人の話か・・・?
「でもさ、何度誘っても、『何処でもいい』とか
『あなたにまかせるわ』なんて言われると、
本当に俺とデートしたいのかなって、勘ぐりたくなるんだよな〜」
サラリーマン風の男がぼやくと、向かい側の男も同調する。
「あ〜〜、それ、わかる!常に受け身って、物足らなくなるよな」
・・・常に受け身って、物足らなくなる?
ほとんど同じ内容を、自分はさっきメールしたばかりだ。
しかも、振り返ってみると、どこかへ行こうというような誘いの
ほとんどは、冴木からだった。
自分は冴木にこんなところまで、頼り切っていた?
こんな自分を、冴木はどう思っていたのだろう・・・。
愛情を疑うつもりは、まったくない。
しかし、いつも冴木に甘えてばかりではいけないと思う。
誘われるばかりでなく、時には、自分から冴木のために、動いたほうがいいのではないか。
生真面目な柊一は、自分の非を自覚すると、すぐに行動を修正すべく、
計画を練り始めた。
「遅いですね」
「道が混んでいるんじゃないかしら?」
「電話のひとつでもあってもいいと思うのですが」
「久しぶりだから、夢中になって遊んでいるのかもしれないわね。
昔から、仲の良い兄弟だったのですもの♪」
ピシッ・・・冴木の心にいらだちの亀裂が入る音が響く。
にっこり微笑んで上品に紅茶の器に唇を当てる柊一の母には、
もちろん聞こえない。
今日の冴木は、ついてなかった。
本当なら、柊一とふたりで、彼の実家でゆっくりする予定だったのが、
冴木だけ急な呼び出しとなり、
ひとりでも行けるから・・・・と遠慮する柊一を説き伏せて、
とりあえず実家まで送り届けたのだった。
「兄さん、久しぶり!あれ?冴木はこのあと仕事なの?」
くったくのない笑顔を向ける桔梗は、大学生。
身長は冴木よりわずかに低いが、男らしい体躯にきれいな筋肉を付けていた。
「はい、申し訳ありませんが、柊一さまをお願いします。
夕方には、お迎えにまいりますので」
素直に詫びを入れる冴木に、桔梗は意地の悪い笑顔で応じた。
「別に、冴木が謝る必要はないよ。
それじゃ、今日は僕が兄さんを独り占め出来るんだ!
ねっ、兄さん、一緒に出かけようよ」
「・・・えっ?・・・ああ、・・そうだな。一緒に映画でも見に行こうか?」
柊一は、ひとり仕事に向かう冴木を済まなそうに見ると、ひかえめに提案した。
ひとり車に乗り込んで、見送ってくれている柊一をミラーで確認すると、
その細い肩を抱き込むようにした桔梗の唇が、何かを囁きながら柊一の頬に近づくのが見えた。
「・・・・・」
昔、柊一が桔梗にキスされている場面を見てしまったことがある。
持っていた物をすべて落としてしまうほどの衝撃。
後に確認すると、桔梗がふざけてした・・・と柊一は気楽に答えていたが、
冴木には、もっと深い思いがあるように思えてならなかった。
しかも、冴木に対する対抗意識のようなものも、確実に感じる。
実の弟に対して、嫉妬するのもおかしいとは思う。
思うが、嫉妬してしまうほど柊一の存在は特別だから。
「何があるとは思えないが、なるべく早く仕事を済ませて、お迎えにあがらなければ・・・」
夕方になり、用件を無事に済ませて迎えに来てみると、
肝心の柊一は、まだ帰っていないと聞いて、疲労感が押し寄せる。
「それにしても、一体どちらまで行かれたのでしょう」
「あら、わたくしったら、言わなかったから?
あのふたり、遊園地に出かけたのよ」
「えっ?・・・ゆう・・・えんち・・・ですか」
思いも寄らない場所だった。
日本で一番有名な巨大テーマパークに、桔梗の運転で出かけていたなんて。
桔梗さま・・・私への当てつけですね。
そうとしか思えない。
だいたい、ハタチ過ぎのいい年をした兄弟で、どうしてテーマパークなのだ。
柊一を助手席に乗せて、ドライブだなんて、兄弟の休日の過ごし方ではないだろう。
それは、まるで・・・。
恋人同士のデート。
しかも、遊園地。
冴木はまだ、経験していないし、思いつきもしない趣向だった。
冷めた紅茶をがぶ飲みする冴木の胸には、身を焦がすような重いが募っていった。
「ただいま!」
「遅くなってごめん・・・って、冴木、ずっと待っていてくれたのか?」
にぎやかで華やかなテンションをまとったふたりが帰宅したのは、暗くなってからだった。
大きなぬいぐるみを母親に贈り、使用人達にもいろいろな種類のお菓子を渡したり、
家中が楽しい雰囲気に包まれていた。
「兄さんって、意外と絶叫系も大丈夫なんだね。もっと怖がってくれると思っていたのに。」
「あ・・・そうかな。実は、ずごく怖かったんだけど、隣が桔梗だから我慢していたんだ」
「なんだ〜、気にせずに抱きついてくれたらよかったのに〜〜〜残念だな」
ちょっと口を尖らせた桔梗は、その視線をすばやく冴木に投げかける。
「冴木はどうなの?」
「・・・何がでしょうか?」
「絶叫系とか、大丈夫?」
「あまり経験がないので、何とも言えませんが」
自分に対するある種の対抗意識を感じて、再び胸が沸々と音を立てる。
「それなら、今度一緒に行こうか、冴木?
お前さえイヤじゃなかったら、今度はお前と行きたいな」
小首をかしげて誘う柊一の言葉に、一瞬のうちに心が凪いでくる。
そうだ。
やっぱり柊一さまは、恋人である自分と過ごしたいんだ。
さらに、柊一から、小さな箱が手渡された。
「ペーパーウエイトなんだ。お前は、こういう可愛い小物は、
あまり好みじゃないかもしれないけど、せっかくだから。」
「ありがとうございます。大切に使いますね」
心からうれしくて、受け取った。
夕飯を是非にと誘われたが、言葉を尽くして辞退して、柊一を車に導く。
自身も乗り込もうとしたそのとき、桔梗に呼び止められた。
「冴木・・・・・これ。どうしようかと思ったけど、やっぱりお前にあげるよ」
そう言って薄い紙袋を押しつけられた。
キラキラした光のパレードが美しかったとか、
着ぐるみのキャラクターの誰に会っただの、
誰とハグしただの、
柊一からの報告は、弟との遊園地の一日の楽しいエピソードばかりだった。
桔梗がどう思っていても、しょせんふたりは兄弟。
そして、自分たちは恋人同士なのだから、バカみたいな嫉妬は不要だ。
どんな表情も、どんな姿態も、自分にすべてを見せてくれるのだから。
柊一の笑顔を見ていると、つまらない嫉妬にさいなまれた自分が、
バカみたいに思えた。
夕食の後に、桔梗に手渡された袋の中身を確かめて、再び冴木はかたまった。
写真が二枚。
一枚は、おそらくカメラを向けている桔梗に向かって、満面の笑みを浮かべて
手を振る柊一のアップ。
・・・柊一さま・・・こんな表情を無防備にさらしてくるとは・・・。
しかも、わざわざ当日仕上げで、私に手渡すとは・・・桔梗さま。
さらに、二枚目は、キャラクターに囲まれている柊一と桔梗。
スタッフにでも撮影を頼んだのだろう。
桔梗は、柊一を背後からしっかり抱きしめており、
白い首筋に顔を埋めんばかりの構図だった。
・・・桔梗さま・・・こんなふうに柊一さまを抱きしめるとは・・・。
しかも。
柊一の髪には、このテーマパークのキャラクターの耳が付けてあるではないか。
・・・・・・・・つけ耳。
見たこともない凶悪なほどの可愛らしさに、とうとう冴木の理性が振り切れる。
「柊一さま!」
「・・・なに・・・冴木?」
パジャマ姿の柊一の手首を握ると、向かい合わせに自分の膝に座らせる。
「どうしたんだ、急に?」
「来週は、私と行ってくださいね、遊園地。」
「・・・ら・・・来週?」
「そして、耳、つけてください」
「耳?」
「そうです、耳です。あ、付けて歩くのはダメです。
私の前でだけ、付けてください。いいですね、約束ですよ」
「・・・う・・・うん」
言っていることが強引で無茶苦茶に思えるが、そんなことを教えてやれる雰囲気ではなかった。
「それじゃ、昼間は桔梗様とたっぷり楽しまれたようですから、
夜は、私とたっぷり楽しみましょう」
そう言うと、そのままベッドにもつれるように倒れ込んだ。
「さ・・・さえ・・・う・・んん・・・」
舌を絡め合い、しめったキスに、溺れる。
「柊一さま・・・今日は、余裕がありません。
すいません・・・でも・・・もう・・・あなたを誰にも触らせたくない」
何度も角度を変えて深く口づけて、顔中に軽いキスを浴びせる。
「・・・バカだな・・・こんなこと、お前にしか許さないのに。
でも、そうだったな・・・お前は一日仕事だったものな・・・。
いいよ、来いよ・・・鷹成」
両手を広げて、冴木を抱き込むと、思い切り深い口づけを与える。
柊一の中に、早くはいりたい。
内側から柊一を感じたい。
熱く締め付けられて、互いしか見えないまま、揺さぶりたい。
何度でも突き上げて、自分を感じさせたい。
あふれてもあふれても、自分を注ぎ込みたい。
自分だけで、いっぱいにしたい。
夜がすっかり深くなった頃。
冷たい水を口移しで柊一に飲ませる。
しなやかに身体を開いて自分を受け入れる柊一には、まったくかなわない。
我を忘れて、狂ったように、その細い身体を求めてしまった。
「あ・・・そう言えば冴木。
あのテーマパークに入った時、お前の声を聴いたんだ」
「私の・・・声ですか?」
「ああ、あれは、気のせいとは思えない・・・お前の声だ。
だから、来週は一緒に出かけような・・・」
ささやくようにそれだけ言うと、柊一は冴木の胸に頬を寄せて、再び眠り始めた。
「私の声など、聞こえるはずがないのに・・・」
瞳を和らげて、柊一の髪に静かに口づけを落とす。
でも、来週は私と一緒に出かけでくださいね、柊一さま。
the End


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「道が混んでいるんじゃないかしら?」
「電話のひとつでもあってもいいと思うのですが」
「久しぶりだから、夢中になって遊んでいるのかもしれないわね。
昔から、仲の良い兄弟だったのですもの♪」
ピシッ・・・冴木の心にいらだちの亀裂が入る音が響く。
にっこり微笑んで上品に紅茶の器に唇を当てる柊一の母には、
もちろん聞こえない。
今日の冴木は、ついてなかった。
本当なら、柊一とふたりで、彼の実家でゆっくりする予定だったのが、
冴木だけ急な呼び出しとなり、
ひとりでも行けるから・・・・と遠慮する柊一を説き伏せて、
とりあえず実家まで送り届けたのだった。
「兄さん、久しぶり!あれ?冴木はこのあと仕事なの?」
くったくのない笑顔を向ける桔梗は、大学生。
身長は冴木よりわずかに低いが、男らしい体躯にきれいな筋肉を付けていた。
「はい、申し訳ありませんが、柊一さまをお願いします。
夕方には、お迎えにまいりますので」
素直に詫びを入れる冴木に、桔梗は意地の悪い笑顔で応じた。
「別に、冴木が謝る必要はないよ。
それじゃ、今日は僕が兄さんを独り占め出来るんだ!
ねっ、兄さん、一緒に出かけようよ」
「・・・えっ?・・・ああ、・・そうだな。一緒に映画でも見に行こうか?」
柊一は、ひとり仕事に向かう冴木を済まなそうに見ると、ひかえめに提案した。
ひとり車に乗り込んで、見送ってくれている柊一をミラーで確認すると、
その細い肩を抱き込むようにした桔梗の唇が、何かを囁きながら柊一の頬に近づくのが見えた。
「・・・・・」
昔、柊一が桔梗にキスされている場面を見てしまったことがある。
持っていた物をすべて落としてしまうほどの衝撃。
後に確認すると、桔梗がふざけてした・・・と柊一は気楽に答えていたが、
冴木には、もっと深い思いがあるように思えてならなかった。
しかも、冴木に対する対抗意識のようなものも、確実に感じる。
実の弟に対して、嫉妬するのもおかしいとは思う。
思うが、嫉妬してしまうほど柊一の存在は特別だから。
「何があるとは思えないが、なるべく早く仕事を済ませて、お迎えにあがらなければ・・・」
夕方になり、用件を無事に済ませて迎えに来てみると、
肝心の柊一は、まだ帰っていないと聞いて、疲労感が押し寄せる。
「それにしても、一体どちらまで行かれたのでしょう」
「あら、わたくしったら、言わなかったから?
あのふたり、遊園地に出かけたのよ」
「えっ?・・・ゆう・・・えんち・・・ですか」
思いも寄らない場所だった。
日本で一番有名な巨大テーマパークに、桔梗の運転で出かけていたなんて。
桔梗さま・・・私への当てつけですね。
そうとしか思えない。
だいたい、ハタチ過ぎのいい年をした兄弟で、どうしてテーマパークなのだ。
柊一を助手席に乗せて、ドライブだなんて、兄弟の休日の過ごし方ではないだろう。
それは、まるで・・・。
恋人同士のデート。
しかも、遊園地。
冴木はまだ、経験していないし、思いつきもしない趣向だった。
冷めた紅茶をがぶ飲みする冴木の胸には、身を焦がすような重いが募っていった。
「ただいま!」
「遅くなってごめん・・・って、冴木、ずっと待っていてくれたのか?」
にぎやかで華やかなテンションをまとったふたりが帰宅したのは、暗くなってからだった。
大きなぬいぐるみを母親に贈り、使用人達にもいろいろな種類のお菓子を渡したり、
家中が楽しい雰囲気に包まれていた。
「兄さんって、意外と絶叫系も大丈夫なんだね。もっと怖がってくれると思っていたのに。」
「あ・・・そうかな。実は、ずごく怖かったんだけど、隣が桔梗だから我慢していたんだ」
「なんだ〜、気にせずに抱きついてくれたらよかったのに〜〜〜残念だな」
ちょっと口を尖らせた桔梗は、その視線をすばやく冴木に投げかける。
「冴木はどうなの?」
「・・・何がでしょうか?」
「絶叫系とか、大丈夫?」
「あまり経験がないので、何とも言えませんが」
自分に対するある種の対抗意識を感じて、再び胸が沸々と音を立てる。
「それなら、今度一緒に行こうか、冴木?
お前さえイヤじゃなかったら、今度はお前と行きたいな」
小首をかしげて誘う柊一の言葉に、一瞬のうちに心が凪いでくる。
そうだ。
やっぱり柊一さまは、恋人である自分と過ごしたいんだ。
さらに、柊一から、小さな箱が手渡された。
「ペーパーウエイトなんだ。お前は、こういう可愛い小物は、
あまり好みじゃないかもしれないけど、せっかくだから。」
「ありがとうございます。大切に使いますね」
心からうれしくて、受け取った。
夕飯を是非にと誘われたが、言葉を尽くして辞退して、柊一を車に導く。
自身も乗り込もうとしたそのとき、桔梗に呼び止められた。
「冴木・・・・・これ。どうしようかと思ったけど、やっぱりお前にあげるよ」
そう言って薄い紙袋を押しつけられた。
キラキラした光のパレードが美しかったとか、
着ぐるみのキャラクターの誰に会っただの、
誰とハグしただの、
柊一からの報告は、弟との遊園地の一日の楽しいエピソードばかりだった。
桔梗がどう思っていても、しょせんふたりは兄弟。
そして、自分たちは恋人同士なのだから、バカみたいな嫉妬は不要だ。
どんな表情も、どんな姿態も、自分にすべてを見せてくれるのだから。
柊一の笑顔を見ていると、つまらない嫉妬にさいなまれた自分が、
バカみたいに思えた。
夕食の後に、桔梗に手渡された袋の中身を確かめて、再び冴木はかたまった。
写真が二枚。
一枚は、おそらくカメラを向けている桔梗に向かって、満面の笑みを浮かべて
手を振る柊一のアップ。
・・・柊一さま・・・こんな表情を無防備にさらしてくるとは・・・。
しかも、わざわざ当日仕上げで、私に手渡すとは・・・桔梗さま。
さらに、二枚目は、キャラクターに囲まれている柊一と桔梗。
スタッフにでも撮影を頼んだのだろう。
桔梗は、柊一を背後からしっかり抱きしめており、
白い首筋に顔を埋めんばかりの構図だった。
・・・桔梗さま・・・こんなふうに柊一さまを抱きしめるとは・・・。
しかも。
柊一の髪には、このテーマパークのキャラクターの耳が付けてあるではないか。
・・・・・・・・つけ耳。
見たこともない凶悪なほどの可愛らしさに、とうとう冴木の理性が振り切れる。
「柊一さま!」
「・・・なに・・・冴木?」
パジャマ姿の柊一の手首を握ると、向かい合わせに自分の膝に座らせる。
「どうしたんだ、急に?」
「来週は、私と行ってくださいね、遊園地。」
「・・・ら・・・来週?」
「そして、耳、つけてください」
「耳?」
「そうです、耳です。あ、付けて歩くのはダメです。
私の前でだけ、付けてください。いいですね、約束ですよ」
「・・・う・・・うん」
言っていることが強引で無茶苦茶に思えるが、そんなことを教えてやれる雰囲気ではなかった。
「それじゃ、昼間は桔梗様とたっぷり楽しまれたようですから、
夜は、私とたっぷり楽しみましょう」
そう言うと、そのままベッドにもつれるように倒れ込んだ。
「さ・・・さえ・・・う・・んん・・・」
舌を絡め合い、しめったキスに、溺れる。
「柊一さま・・・今日は、余裕がありません。
すいません・・・でも・・・もう・・・あなたを誰にも触らせたくない」
何度も角度を変えて深く口づけて、顔中に軽いキスを浴びせる。
「・・・バカだな・・・こんなこと、お前にしか許さないのに。
でも、そうだったな・・・お前は一日仕事だったものな・・・。
いいよ、来いよ・・・鷹成」
両手を広げて、冴木を抱き込むと、思い切り深い口づけを与える。
柊一の中に、早くはいりたい。
内側から柊一を感じたい。
熱く締め付けられて、互いしか見えないまま、揺さぶりたい。
何度でも突き上げて、自分を感じさせたい。
あふれてもあふれても、自分を注ぎ込みたい。
自分だけで、いっぱいにしたい。
夜がすっかり深くなった頃。
冷たい水を口移しで柊一に飲ませる。
しなやかに身体を開いて自分を受け入れる柊一には、まったくかなわない。
我を忘れて、狂ったように、その細い身体を求めてしまった。
「あ・・・そう言えば冴木。
あのテーマパークに入った時、お前の声を聴いたんだ」
「私の・・・声ですか?」
「ああ、あれは、気のせいとは思えない・・・お前の声だ。
だから、来週は一緒に出かけような・・・」
ささやくようにそれだけ言うと、柊一は冴木の胸に頬を寄せて、再び眠り始めた。
「私の声など、聞こえるはずがないのに・・・」
瞳を和らげて、柊一の髪に静かに口づけを落とす。
でも、来週は私と一緒に出かけでくださいね、柊一さま。
the End人気ブログランキングへ


前回までのお話はコチラからどうぞ
→第一回、第二回、第三回、第四回、第五回、第六回、第七回
「だったら、イギリスにいる間俺の言うことをきけ。
文句はいっさい受け付けない。
いいか、今から帰国するまで、俺がお前の主人だ」
「はぁっ?」
俺は馬鹿のようにぽかんと口を開ける。
「しゅ、主人って、何だそれ?
何わけわかんねぇこと言ってんだよ」
「ごちゃごちゃうるさいぞ。
職場にバラされたくなかったら、俺の命令に黙って従え」
こ、こいつ・・・・・・。
女みたいに綺麗な顔してるくせにとんでもねぇ奴だ。
普段の大人しそうな態度は人目を欺くためのカモフラージュか?
だとしたら、俺を含めてみんなこいつに見事に騙されてる。
「わかったら、そこにちゃんと座って『はい』と言え」
高飛車に高遠が言う。
俺は犬かよ
頭に来るが、逆らうと後が怖いので言われたとおりにする。
情けない・・・・・・。
「よし。
まず、そこに横になれ」
は?
きょとんとして自分が座っているベッドを見つめる俺に、高遠は焦れたように舌打ちする。
俺は慌ててベッドカバーの上に横になった。
眼鏡の奥の高遠の目が、嬉しそうにきらりと光る。
ベッドサイドに立つ彼を、不安げに俺は見上げた。
☆第九回につづく☆


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→第一回、第二回、第三回、第四回、第五回、第六回、第七回「だったら、イギリスにいる間俺の言うことをきけ。
文句はいっさい受け付けない。
いいか、今から帰国するまで、俺がお前の主人だ」
「はぁっ?」
俺は馬鹿のようにぽかんと口を開ける。
「しゅ、主人って、何だそれ?
何わけわかんねぇこと言ってんだよ」
「ごちゃごちゃうるさいぞ。
職場にバラされたくなかったら、俺の命令に黙って従え」
こ、こいつ・・・・・・。
女みたいに綺麗な顔してるくせにとんでもねぇ奴だ。
普段の大人しそうな態度は人目を欺くためのカモフラージュか?
だとしたら、俺を含めてみんなこいつに見事に騙されてる。
「わかったら、そこにちゃんと座って『はい』と言え」
高飛車に高遠が言う。
俺は犬かよ

頭に来るが、逆らうと後が怖いので言われたとおりにする。
情けない・・・・・・。
「よし。
まず、そこに横になれ」
は?
きょとんとして自分が座っているベッドを見つめる俺に、高遠は焦れたように舌打ちする。
俺は慌ててベッドカバーの上に横になった。
眼鏡の奥の高遠の目が、嬉しそうにきらりと光る。
ベッドサイドに立つ彼を、不安げに俺は見上げた。
☆第九回につづく☆
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前回まではコチラです→第一回、第二回、第三回、第四回、第五回、第六回
「乾杯」
高遠は自分のグラスにもブランデーを注ぎ入れ、グラスを掲げると、俺のグラスの縁に軽く触れる。
グラスをゆっくりと回しながら手のひらで温め、口元に運ぶ。
ブランデーを嚥下すると、高遠の喉元がごくりと動く。
男にしてはほっそしりた白い首筋がやけに艶かしくて、俺は思わず視線を逸らせた。
俺も高遠に習いグラスに口をつけ、ぐっと一息に煽る。
熱い液体が喉から胃の奥へと落ちていく。
たちまちふわりと全身が心地よい酩酊感に包まれる。
「美味い・・・・・・」
思わず賛美が俺の口をついて出る。
「当然だ。VSOPだからな。旅の友に成田でゲットした」
「very superior old・・・」
俺は記憶をたどろうとして、口ごもる。
「paleだ。少なくとも5年以上熟成させた澄んだ上質のブランデー。ありがたく飲め」
俺は高遠の端正な顔をまじまじと見つめながら、あっけにとられていた。
高遠って、こんな俺様キャラだったのか?
職場では口数が少なく、どちらかと言うと内向的な男だと思っていた。
少なくともあまり親しくない同僚に、こんな口のきき方をするとは思ってもみなかった。
それが有無を言わせぬ迫力がある。
意外だ。
いや、俺たちもう他人じゃないし・・・・・・。
自分でツッコンでおきながら、俺はその事実に冷や汗をかく。
「なあ、高遠。冗談は抜きにして、ざっくばらんに話そうじゃないか。
俺はお前に脅されてここに来た」
何か言いたげに高遠の目がきらりと光る。
「『ゆうべのことは職場に黙っていてやるから、一週間の休暇を取ってロンドンに同行しろ』
お前はそう言った。立派な脅しだ。
男を襲ったなんて会社にばれたら、恥ずかしくて二度と職場に行かれない」
「女性社員を食べまくりのプレイボーイのお前が、酒に酔ったとは言え、男を食ったと知られたら、大騒ぎだろうな」
面白そうに高遠がくすりと笑う。
この悪魔め――。
「ああ、そうだ。
そんなことが職場にバレたら、俺は生きていけない。
だから、教えてくれ。俺は何をすればいいんだ?」
俺はまっすぐ高遠の目を見据えて言った。
「いい覚悟だ」
高遠も視線を逸らさず、フッと唇だけで不敵に微笑む。
や、やな予感・・・・・・。
☆第八回につづく☆ああ、どんどんコメディーになっていく・・・


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「乾杯」
高遠は自分のグラスにもブランデーを注ぎ入れ、グラスを掲げると、俺のグラスの縁に軽く触れる。
グラスをゆっくりと回しながら手のひらで温め、口元に運ぶ。
ブランデーを嚥下すると、高遠の喉元がごくりと動く。
男にしてはほっそしりた白い首筋がやけに艶かしくて、俺は思わず視線を逸らせた。
俺も高遠に習いグラスに口をつけ、ぐっと一息に煽る。
熱い液体が喉から胃の奥へと落ちていく。
たちまちふわりと全身が心地よい酩酊感に包まれる。
「美味い・・・・・・」
思わず賛美が俺の口をついて出る。
「当然だ。VSOPだからな。旅の友に成田でゲットした」
「very superior old・・・」
俺は記憶をたどろうとして、口ごもる。
「paleだ。少なくとも5年以上熟成させた澄んだ上質のブランデー。ありがたく飲め」
俺は高遠の端正な顔をまじまじと見つめながら、あっけにとられていた。
高遠って、こんな俺様キャラだったのか?
職場では口数が少なく、どちらかと言うと内向的な男だと思っていた。
少なくともあまり親しくない同僚に、こんな口のきき方をするとは思ってもみなかった。
それが有無を言わせぬ迫力がある。
意外だ。
いや、俺たちもう他人じゃないし・・・・・・。
自分でツッコンでおきながら、俺はその事実に冷や汗をかく。
「なあ、高遠。冗談は抜きにして、ざっくばらんに話そうじゃないか。
俺はお前に脅されてここに来た」
何か言いたげに高遠の目がきらりと光る。
「『ゆうべのことは職場に黙っていてやるから、一週間の休暇を取ってロンドンに同行しろ』
お前はそう言った。立派な脅しだ。
男を襲ったなんて会社にばれたら、恥ずかしくて二度と職場に行かれない」
「女性社員を食べまくりのプレイボーイのお前が、酒に酔ったとは言え、男を食ったと知られたら、大騒ぎだろうな」
面白そうに高遠がくすりと笑う。
この悪魔め――。
「ああ、そうだ。
そんなことが職場にバレたら、俺は生きていけない。
だから、教えてくれ。俺は何をすればいいんだ?」
俺はまっすぐ高遠の目を見据えて言った。
「いい覚悟だ」
高遠も視線を逸らさず、フッと唇だけで不敵に微笑む。
や、やな予感・・・・・・。
☆第八回につづく☆ああ、どんどんコメディーになっていく・・・

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前回まではコチラです→第一回、第二回、第三回、第四回、第五回
「何だ? 聞いてやるからさっさと言え」
高遠の意下高な口調に一瞬むっとしたが、ここで奴に喧嘩を売っている場合じゃない。
「実は俺……何も覚えてないんだ」
「は?」
「何も……強引にキスしたこと意外何にも覚えちゃいない」
高遠と目を合わせるのが怖くてフローリングの床に視線を落とす。
うつくむく俺の頭のてっぺんに高遠の視線が突き刺さる。
「本当に何も覚えてないのか?」
「想像はつくが、あくまでも想像の域だ。だから償えと言われても、どうしていいかわからない。悪いけど」
「思い出したくないだけだろう」
ぴしゃりと高遠が切り捨てる。むっとしているのが口調でわかる。
「だったらなんでイギリスまで着いてきた? 俺に責任を感じたからじゃないのか?」
「あのときはそう思った。気が動転してたんだ。目が覚めたら裸で他人同然のお前と抱き合っていた。だが時間が経つにつれ、やっぱり信じられなくなってきた。俺が……お前にそんなことしたなんて」
「さんざん好き放題したくせにそう来るか。最低だな」
好き放題・・・・・・したのか、俺
酒に酔っていたとはいえ、確かに最低だな。
よりによって同僚の男に手を出すとは・・・・・・。
どんだけ欲求不満だったんだよ、俺。
挿れられれば木の幹の穴でもいい、みたいな発情期のケダモノじゃあるまいし。
最悪だ!
俺は頭をかきむしった。
「何、一人で百面相してるんだ、杉原。見た目はイケてるくせに、おかしな奴だな。お前に惚れている女性社員たちに見せてやりたいよ」
高遠がくすりと笑う。花びらが綻ぶような妖艶な笑顔に思わず見惚れる。
「まあいい。ムカつくが、覚えてないと言うものは仕方ない。
罰として一杯つきあえ」
「今から?」
「そうだ」
高遠はさっさとサイドテーブルの上にあったグラスを手に立ち上がると、ミニバーの扉を開けて中を覗く。
「ワインしかないな」
がっかりしたように言うと、高遠はクローゼットにしまっていたスーツケースを引っ張り出し、中から黒っぽいボトルを取り出す。
「ブランデーでもいいか?」
そんなものを飲んだら、シャワーも浴びずに爆眠してしまう・・・・・・。
そう抗議する間もなく、高遠はさっさとグラスにブランデーの琥珀色の液体を半分ほど注ぎ入れる。
「ほら」
グラスを差し出され、俺は手に取った。
☆第七回に続くのだ☆ああ、早く濡れ場
が書きたい・・・笑
「何だ? 聞いてやるからさっさと言え」
高遠の意下高な口調に一瞬むっとしたが、ここで奴に喧嘩を売っている場合じゃない。
「実は俺……何も覚えてないんだ」
「は?」
「何も……強引にキスしたこと意外何にも覚えちゃいない」
高遠と目を合わせるのが怖くてフローリングの床に視線を落とす。
うつくむく俺の頭のてっぺんに高遠の視線が突き刺さる。
「本当に何も覚えてないのか?」
「想像はつくが、あくまでも想像の域だ。だから償えと言われても、どうしていいかわからない。悪いけど」
「思い出したくないだけだろう」
ぴしゃりと高遠が切り捨てる。むっとしているのが口調でわかる。
「だったらなんでイギリスまで着いてきた? 俺に責任を感じたからじゃないのか?」
「あのときはそう思った。気が動転してたんだ。目が覚めたら裸で他人同然のお前と抱き合っていた。だが時間が経つにつれ、やっぱり信じられなくなってきた。俺が……お前にそんなことしたなんて」
「さんざん好き放題したくせにそう来るか。最低だな」
好き放題・・・・・・したのか、俺

酒に酔っていたとはいえ、確かに最低だな。
よりによって同僚の男に手を出すとは・・・・・・。
どんだけ欲求不満だったんだよ、俺。
挿れられれば木の幹の穴でもいい、みたいな発情期のケダモノじゃあるまいし。
最悪だ!
俺は頭をかきむしった。
「何、一人で百面相してるんだ、杉原。見た目はイケてるくせに、おかしな奴だな。お前に惚れている女性社員たちに見せてやりたいよ」
高遠がくすりと笑う。花びらが綻ぶような妖艶な笑顔に思わず見惚れる。
「まあいい。ムカつくが、覚えてないと言うものは仕方ない。
罰として一杯つきあえ」
「今から?」
「そうだ」
高遠はさっさとサイドテーブルの上にあったグラスを手に立ち上がると、ミニバーの扉を開けて中を覗く。
「ワインしかないな」
がっかりしたように言うと、高遠はクローゼットにしまっていたスーツケースを引っ張り出し、中から黒っぽいボトルを取り出す。
「ブランデーでもいいか?」
そんなものを飲んだら、シャワーも浴びずに爆眠してしまう・・・・・・。
そう抗議する間もなく、高遠はさっさとグラスにブランデーの琥珀色の液体を半分ほど注ぎ入れる。
「ほら」
グラスを差し出され、俺は手に取った。
☆第七回に続くのだ☆ああ、早く濡れ場
が書きたい・・・笑 「それじゃ柊一さん、帰りは迎えに行きますから」
「いいよ、別に。連絡をくれたら、僕が上がってくるから」
「いいじゃないですか、たまには。あなたのデスクの周りも見てみたいんです」
「・・・そうか・・・じゃ、・・・待ってる」
見つめ合う本人達は、どう思っているかわからないが、同席している若宮としては、
いちゃついているとしか思えないやりとりに、
平和でいいもんだな・・・とか、
そう言えば、俺もこういういちゃいちゃをしたいものだ・・・とか、
ついため息をこぼしそうになった。
退室しようと、社長室の扉に向かって歩き出した柊一の肘の当たりを、
冴木はそっと支えるように寄り添うと、
さらに、その手を背中に回してエスコートする。
奇跡的な回復を見せたとはいえ、
冴木にとっては、常に守るべき大切な人であることに変わりはなかった。
「そういえば、なぁ、冴木。この部屋、少し暑くないか、大丈夫か?」
「・・・そう・・・ですか?私は、別に感じませんが」
「そうかな。僕がいるフロアのほうが、かなり涼しいと思うのだが・・・」
その言葉に、一瞬冴木がわずかに目を細める。
「若宮先生は、いかがですか?」
冴木の視線の変化などまったく気づいていない柊一は、何気なく話を向ける。
正直言って、若宮はすでに今夜の早瀬とのデートのことを考えていたので、
部屋の温度など、どうでもいい話題であった。
ところが、話題を振られた時の、冴木の瞳の動きに、
ここは慎重に返答すべきなのかな・・・と、頭の中で警報が響いた。
「あ〜、ちょっと暑い・・・かな・・・ここ?」
一応、柊一に同調して様子をみる。
冴木の鋭い視線に痛さが増した。
どうやら、間違った方向に進んでしまったようだ。
いかん、いかん、軌道修正・・・。
「でも、柊一くん、同じ設定温度でも、フロアの物の配置とか人数によっては、
体感温度は微妙に違うと聞いたことがある。
たぶん、そのためじゃないかな?」
冴木の視線は柊一にもどり、剣呑さは瞬時に消え失せた。
どうやら、正しい方向で返答出来たみたいだな。
早瀬、俺はちゃんとできたぞ!
つい先日の、携帯電話の一件で、
恋人から一刀両断・問答無用に苦い評価を受けた若宮は、
二度と同じ失態は繰り返すまいと、密かに決意していた。
空気が読めないだの、言わなくていいことをお約束のように言ってしまうだの
ベッドの外では、言いたい放題で可愛くないことこの上ないお姫様ではあるが、
何でも許せてしまうほど、メロメロであることも事実だった。
「そうなんですか。冴木、少し社長室も模様替えして、
エコ対策をしてもいいかもしれないな」
人の気も知らない、のんきな笑顔で柊一は自分の所属に戻っていった。
「さすがに、学習したみたいだな」
「余計なことは言うな・・・ということか?」
若宮の質問をあっさり聞き流して、デスクの書類を片づけ始める。
「・・・ということは・・・おい冴木、本当に設定温度下げてあるのか?」
冴木は手を休めることなく、ちらっと視線を挙げて口を開いた。
「・・・別に関係ないことだと思うが・・・知りたいのか?」
ここまで聴けば十分だと言うことも、冴木とのつきあいの長い若宮は察知していた。
つまり、柊一のいるフロアだけは、エアコンの設定温度が低いのだ。
そこまでするのかっ!
口の中に甘い砂糖がジャリジャリするような気分だった。
まったく、この過保護の恋人は、どうしようもないな・・・。
でも、ま、同じフロアの早瀬も涼しく仕事ができるのだから、
まあ、いいか。
ジャリジャリを丸ごと飲み込む。
「いや、別に俺には関係のないことだから」
「そうだな。不要な情報を仕入れるほど、暇ではないと思うしな」
ちくしょう、冴木のヤツ。
今夜は、このことを早瀬に言いつけてやる。
しかし、若宮はすべての事情を知ってはいなかった。
設定温度が低いのは、恋人の職場を快適にするため・・・これは二次的な理由。
真の理由は別にあったのだ。
事の始まりは、いまから約1ヶ月前にさかのぼる。
梅雨入りにはまだ早い5月中旬。
冴木は社内ネットワークを使って電子決済処理をしていた。
倉橋物産では、一般的な起案については、パソコンを使った決済システムに移行していた。
今朝アップされた決済ファイル内の文書をひとつひとつ改めていく。
「・・・ん?エコ対策としてのクールビズ対応について・・・か」
近年では、企業の社会貢献や環境への取り組みは当たり前となっている。
倉橋物産としても、積極的に勧めている最中でもあった。
社内のエアコンの設定温度について、
社内での服装の簡素化について、
残業をしない日を定めることについて、
確かに、どれも努力の範囲内で十分にできる内容に思われた。
真新しさはないが、地道な方法でもあり妥当に思う。
「あとは、これを実施することによる実質的な電力削減量の試算が見たいところだな」
ところが、冴木の気持ちを乱す出来事は帰宅後に起こった。
「おかえりなさ、柊一さま。・・・買い物だったのですか?」
「ああ、ちょっと時間があったので、寄ってみたんだ」
「言ってくだされば、ご一緒したのに」
「何を言ってるんだ、子どもじゃあるまいし。シャツくらい、僕ひとりで買えるよ」
「シャツ・・・ですか?」
「ああ。来月からクールビズなんだろ?
僕、半袖シャツって持っていないから、やっぱり必要かと思って、少し買ってきたんだ」
そう言って、どうかな?と自分の身体に当てて、ちょっと首をかしげる。
その悩殺的な愛らしさに、このまま押し倒してやろうかと近づいて、ふと気づく。
半袖などを着てしまっては、白くてきれいな腕の内側が丸見えになってしまうし、
ノーネクタイで、第1ボタンなどをはずされては、
なまめかしい首筋が露出してしまう。
手首の内側、二の腕の内側、太ももの内側・・・
口の内側・・・そして、いつも冴木自身を包み込んで熱く吸い付くように締め上げる
自分だけが知る柊一の秘密の内側。
内側と名の付く場所は、誰にも見せたくない「イイトコロ」なのだ。
クールビズとかエコとか、そう言うものにとやかく言われる筋合いの物ではないのだ。
とにかく、半袖の着用はとめなければ。
そして、今夜も早く、脱がして抱いて、舐めて挿れて泣かせたい。
「柊一さま、本社ビルは意外と涼しいものですよ。
もともと体温も低い方ですからね、あなたは。
だから、実際に6月になってから、判断された方がいいのではありませんか?」
本音はちらりとも見せずに、しごく常識的でかつ親切な論を提案する。
「あっ・・・確かに、お前の言うとおりだな。うん、そうするよ」
「じゃ、風呂にしませんか。今夜は寝る前に、少し酒でも飲みましょう」
余談ながら、
このあとは、もちろん、冴木の思い通りの展開となった。
いや、アルコールの効果なのか、
大胆でいつもより積極的な柊一の反応に、
すっかり、たががはずれて、明け方まで夢中になった。
結果として、半袖シャツではカバーしきれない場所まで、
鮮やかなキスマークがほどこされたのだった。
「やはり、半袖など、許すべきではないな」
自分は正しいという確信を深めた冴木だった。
若宮の予想の、常に右斜め上をいく過保護でヤキモチ焼きな男、冴木。
ちゃっかり柊一のフロアのみ、設定温度を2度も下げさせた真の理由は、
職場で半袖を着させたくないがため。
さらに、帰りに所属まで迎えに行く真の理由は、デスク周りを見たいのではなく、
最近遠慮がちにも、柊一を飲み会に誘い始めた
『チャレンジャーなフロアの雰囲気を牽制するため』であった。
・・・どうしても柊一さまを誘うのであれば、社長である自分も付いていく・・・、
くらいの態度で、穏やかに、そしてあからさまにアピールするのだった。
「まるで、まっ黒な大型犬。っていうか、ご主人バカの番犬だな」
早瀬は、こっそりつぶやくと、我関せずのままキーボードを叩き続けるのだった。
☆the END ☆


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「いいよ、別に。連絡をくれたら、僕が上がってくるから」
「いいじゃないですか、たまには。あなたのデスクの周りも見てみたいんです」
「・・・そうか・・・じゃ、・・・待ってる」
見つめ合う本人達は、どう思っているかわからないが、同席している若宮としては、
いちゃついているとしか思えないやりとりに、
平和でいいもんだな・・・とか、
そう言えば、俺もこういういちゃいちゃをしたいものだ・・・とか、
ついため息をこぼしそうになった。
退室しようと、社長室の扉に向かって歩き出した柊一の肘の当たりを、
冴木はそっと支えるように寄り添うと、
さらに、その手を背中に回してエスコートする。
奇跡的な回復を見せたとはいえ、
冴木にとっては、常に守るべき大切な人であることに変わりはなかった。
「そういえば、なぁ、冴木。この部屋、少し暑くないか、大丈夫か?」
「・・・そう・・・ですか?私は、別に感じませんが」
「そうかな。僕がいるフロアのほうが、かなり涼しいと思うのだが・・・」
その言葉に、一瞬冴木がわずかに目を細める。
「若宮先生は、いかがですか?」
冴木の視線の変化などまったく気づいていない柊一は、何気なく話を向ける。
正直言って、若宮はすでに今夜の早瀬とのデートのことを考えていたので、
部屋の温度など、どうでもいい話題であった。
ところが、話題を振られた時の、冴木の瞳の動きに、
ここは慎重に返答すべきなのかな・・・と、頭の中で警報が響いた。
「あ〜、ちょっと暑い・・・かな・・・ここ?」
一応、柊一に同調して様子をみる。
冴木の鋭い視線に痛さが増した。
どうやら、間違った方向に進んでしまったようだ。
いかん、いかん、軌道修正・・・。
「でも、柊一くん、同じ設定温度でも、フロアの物の配置とか人数によっては、
体感温度は微妙に違うと聞いたことがある。
たぶん、そのためじゃないかな?」
冴木の視線は柊一にもどり、剣呑さは瞬時に消え失せた。
どうやら、正しい方向で返答出来たみたいだな。
早瀬、俺はちゃんとできたぞ!
つい先日の、携帯電話の一件で、
恋人から一刀両断・問答無用に苦い評価を受けた若宮は、
二度と同じ失態は繰り返すまいと、密かに決意していた。
空気が読めないだの、言わなくていいことをお約束のように言ってしまうだの
ベッドの外では、言いたい放題で可愛くないことこの上ないお姫様ではあるが、
何でも許せてしまうほど、メロメロであることも事実だった。
「そうなんですか。冴木、少し社長室も模様替えして、
エコ対策をしてもいいかもしれないな」
人の気も知らない、のんきな笑顔で柊一は自分の所属に戻っていった。
「さすがに、学習したみたいだな」
「余計なことは言うな・・・ということか?」
若宮の質問をあっさり聞き流して、デスクの書類を片づけ始める。
「・・・ということは・・・おい冴木、本当に設定温度下げてあるのか?」
冴木は手を休めることなく、ちらっと視線を挙げて口を開いた。
「・・・別に関係ないことだと思うが・・・知りたいのか?」
ここまで聴けば十分だと言うことも、冴木とのつきあいの長い若宮は察知していた。
つまり、柊一のいるフロアだけは、エアコンの設定温度が低いのだ。
そこまでするのかっ!
口の中に甘い砂糖がジャリジャリするような気分だった。
まったく、この過保護の恋人は、どうしようもないな・・・。
でも、ま、同じフロアの早瀬も涼しく仕事ができるのだから、
まあ、いいか。
ジャリジャリを丸ごと飲み込む。
「いや、別に俺には関係のないことだから」
「そうだな。不要な情報を仕入れるほど、暇ではないと思うしな」
ちくしょう、冴木のヤツ。
今夜は、このことを早瀬に言いつけてやる。
しかし、若宮はすべての事情を知ってはいなかった。
設定温度が低いのは、恋人の職場を快適にするため・・・これは二次的な理由。
真の理由は別にあったのだ。
事の始まりは、いまから約1ヶ月前にさかのぼる。
梅雨入りにはまだ早い5月中旬。
冴木は社内ネットワークを使って電子決済処理をしていた。
倉橋物産では、一般的な起案については、パソコンを使った決済システムに移行していた。
今朝アップされた決済ファイル内の文書をひとつひとつ改めていく。
「・・・ん?エコ対策としてのクールビズ対応について・・・か」
近年では、企業の社会貢献や環境への取り組みは当たり前となっている。
倉橋物産としても、積極的に勧めている最中でもあった。
社内のエアコンの設定温度について、
社内での服装の簡素化について、
残業をしない日を定めることについて、
確かに、どれも努力の範囲内で十分にできる内容に思われた。
真新しさはないが、地道な方法でもあり妥当に思う。
「あとは、これを実施することによる実質的な電力削減量の試算が見たいところだな」
ところが、冴木の気持ちを乱す出来事は帰宅後に起こった。
「おかえりなさ、柊一さま。・・・買い物だったのですか?」
「ああ、ちょっと時間があったので、寄ってみたんだ」
「言ってくだされば、ご一緒したのに」
「何を言ってるんだ、子どもじゃあるまいし。シャツくらい、僕ひとりで買えるよ」
「シャツ・・・ですか?」
「ああ。来月からクールビズなんだろ?
僕、半袖シャツって持っていないから、やっぱり必要かと思って、少し買ってきたんだ」
そう言って、どうかな?と自分の身体に当てて、ちょっと首をかしげる。
その悩殺的な愛らしさに、このまま押し倒してやろうかと近づいて、ふと気づく。
半袖などを着てしまっては、白くてきれいな腕の内側が丸見えになってしまうし、
ノーネクタイで、第1ボタンなどをはずされては、
なまめかしい首筋が露出してしまう。
手首の内側、二の腕の内側、太ももの内側・・・
口の内側・・・そして、いつも冴木自身を包み込んで熱く吸い付くように締め上げる
自分だけが知る柊一の秘密の内側。
内側と名の付く場所は、誰にも見せたくない「イイトコロ」なのだ。
クールビズとかエコとか、そう言うものにとやかく言われる筋合いの物ではないのだ。
とにかく、半袖の着用はとめなければ。
そして、今夜も早く、脱がして抱いて、舐めて挿れて泣かせたい。
「柊一さま、本社ビルは意外と涼しいものですよ。
もともと体温も低い方ですからね、あなたは。
だから、実際に6月になってから、判断された方がいいのではありませんか?」
本音はちらりとも見せずに、しごく常識的でかつ親切な論を提案する。
「あっ・・・確かに、お前の言うとおりだな。うん、そうするよ」
「じゃ、風呂にしませんか。今夜は寝る前に、少し酒でも飲みましょう」
余談ながら、
このあとは、もちろん、冴木の思い通りの展開となった。
いや、アルコールの効果なのか、
大胆でいつもより積極的な柊一の反応に、
すっかり、たががはずれて、明け方まで夢中になった。
結果として、半袖シャツではカバーしきれない場所まで、
鮮やかなキスマークがほどこされたのだった。
「やはり、半袖など、許すべきではないな」
自分は正しいという確信を深めた冴木だった。
若宮の予想の、常に右斜め上をいく過保護でヤキモチ焼きな男、冴木。
ちゃっかり柊一のフロアのみ、設定温度を2度も下げさせた真の理由は、
職場で半袖を着させたくないがため。
さらに、帰りに所属まで迎えに行く真の理由は、デスク周りを見たいのではなく、
最近遠慮がちにも、柊一を飲み会に誘い始めた
『チャレンジャーなフロアの雰囲気を牽制するため』であった。
・・・どうしても柊一さまを誘うのであれば、社長である自分も付いていく・・・、
くらいの態度で、穏やかに、そしてあからさまにアピールするのだった。
「まるで、まっ黒な大型犬。っていうか、ご主人バカの番犬だな」
早瀬は、こっそりつぶやくと、我関せずのままキーボードを叩き続けるのだった。
☆the END ☆
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